子供の健康とウェルネス
なぜ子どものトレーニングには年齢に合った配慮が必要なの?
子どもや思春期の若者は、「小さな大人」ではありません。
生理的にも心理的にも、大人とは異なる発達段階にあり、骨・筋肉・関節・ホルモンなど、体のさまざまな機能がまだ成長の途中にあります。
そのため、トレーニングプログラムは発達段階に応じて設計されることが重要です。そうすることで、安全かつ効果的に、将来のパフォーマンスや健康につながるしっかりとした基礎を築くことができます。
6〜9歳:基礎的な動きとコーディネーションの習得
重点ポイント:
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自分の体を意識する力(ボディアウェアネス)と空間のコントロール
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基本的な運動スキルの発達(走る、スキップ、ケンケン、バランスを取る など)
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シンプルなチームゲームや鬼ごっこを応用したアジリティドリル
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パフォーマンスよりも、「楽しさ」と「探求心」を大切に
なぜこの時期が大切なのか:
この時期の子どもたちは、脳や神経筋系(ニューロマスキュラーシステム)が著しく発達する段階にあります。そのため、さまざまな基本動作を経験することで、運動の土台となる「身体の使い方」や「動きの連動・協調性」が自然に身につきやすい時期です(Lloyd & Oliver, 2012)。
このタイミングを活かして多様な動きを取り入れることで、将来の運動能力やケガ予防にもつながる重要な基盤を築くことができます。
10〜12歳:動きの精度を高め、成長期に備えた体づくり
重点ポイント:
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スポーツスキルの精度を高める
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反応速度を鍛えるドリルの導入
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自重やチューブを使った基礎的な筋力トレーニングの開始
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アジリティラダーや方向転換コーンなどの構造的なドリルに取り組む
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将来のプライオメトリクス(ジャンプ系トレーニング)に備えて、正しい着地の動作を学ぶ
なぜこの時期が大切なのか:
10〜12歳の子どもたちは、まだホルモンの影響(テストステロンやエストロゲン)は少ない時期ですが、体の神経と筋肉のつながりがどんどん発達していく段階です。
このタイミングで正しい動き方を身につけることで、筋肉を大きくするというよりも、「うまく体を動かす力」が大きく伸びていきます(Faigenbaum ら, 2009)。
将来のケガ予防や運動パフォーマンスにもつながる、大切な基礎づくりの時期です。
13〜15歳:成長期の体の変化と安全な筋力づくり
重点ポイント:
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軽め〜中程度の重りを使った安全な筋力トレーニングを、大人の指導のもとで始める
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重さよりも正しいフォームの習得を最優先
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ジャンプスクワットやメディシンボール投げなど、コントロールされたジャンプ系トレーニング(プライオメトリクス)を段階的に導入
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ケガ予防と回復のために、ウォームアップとクールダウンの正しいやり方を身につける
なぜこの時期が大切なのか:
思春期に入ると、ホルモンの変化により体が大きく成長し始めます。
男の子はテストステロン、女の子はエストロゲンの分泌が増え、筋肉や関節・腱などの組織が発達しやすい時期になります。
このタイミングで適切な指導のもとに行う筋力トレーニングは、安全で効果的であることが研究でも証明されています(Lloyd ら, 2016;NSCA 2009)。
16歳以上:パフォーマンストレーニングと専門的トレーニングへの移行
重点ポイント:
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ピリオダイゼーション(期分け)を取り入れた筋力・パワートレーニングプログラムの実施
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強度の高いプライオメトリクス(ボックスジャンプ、ラテラルバウンドなど)の導入
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競技に特化したドリルで技術と反応力を強化
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睡眠・栄養・柔軟性など、個々の回復管理にも重点を置く
なぜこの時期が大切なのか:
16歳頃になると、筋肉・骨格・ホルモンなどの身体システムはほぼ成熟してきます。
この段階では、適切な指導のもとであれば、大人と同様のストレングス&コンディショニングプログラムを安全に行うことが可能です。
ただし、トレーニングの質を高める一方で、回復・メンタルバランス・オーバートレーニングの予防にも注意が必要です。
科学的根拠/参考文献
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Faigenbaum, A.D. ほか(2009)
『ユース世代におけるレジスタンストレーニング:NSCAによる最新ポジションステートメント』
※National Strength and Conditioning Association(全米ストレングス&コンディショニング協会) -
Lloyd, R.S. & Oliver, J.L.(2012)
『ユース身体発達モデル:長期的なアスリート育成に対する新しいアプローチ』
※The Youth Physical Development Model -
Lloyd, R.S. ほか(2016)
『長期的アスリート育成に関するNSCAポジションステートメント』
※NSCA Position Statement on Long-Term Athletic Development