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リンパ浮腫の管理と治療

顎下部・顔面浮腫
頭頸部がん治療後

頭頸部がんの治療後、多くの方があごの下（顎下部）やあごのライン、顔に腫れを感じることがあります。これは顎下部・顔面リンパ浮腫（submental and facial lymphedema）と呼ばれ、手術や放射線治療、瘢痕によってリンパ液が正常に流れなくなることで起こります。一般的な合併症ですが、リハビリや自己管理、専用の圧迫製品によってコントロールが可能です。

なぜ起こるのか（原因）:

  • 手術：リンパ節や周囲組織の切除によりリンパの流れが障害されます (Smith et al., 2015)。

  • 放射線治療：放射線による瘢痕や線維化がリンパ管をふさぎ、リンパの流れを妨げます (Ridner et al., 2016)。

  • 瘢痕と線維化：治療後に組織が硬くなり、特にあご下のリンパ液移動が難しくなります (Smith et al., 2015)。

  • 重力と体位：横になる、下を向くなどの姿勢でリンパ液が顎下部にたまりやすくなります (Smith et al., 2015)。

どのくらい多いのか:

  • 頭頸部がん患者の最大75％が、何らかのリンパ浮腫を発症します (Ridner et al., 2016)。

  • そのうち半数程度は外から見える顔面や頸部の腫れ、残りは咽頭など内部に起こります (Deng et al., 2012)。

  • 発症は治療後数週間から数か月以内に起こり、放置すると長期間持続することがあります。

治療の基本的な考え方:

完全包括的理学療法（Complete Decongestive Therapy, CDT）

国際リンパ学会（International Society of Lymphology, 2020）によって推奨されている最も効果的な方法です。CDTは次の4つの柱から成ります：

  1. Manual Lymph Drainage (MLD, リンパドレナージ)

    • 優しいマッサージでリンパ液を健常な経路へ誘導します。

    • 専門の理学療法士が施行し、自己管理用の簡易版も指導します。

  2. 圧迫療法 (Compression Therapy)

    • 専用のストラップ、マスク、ガーメント、機器で圧をかけ、再び腫れが出るのを防ぎます。

  3. 運動療法 (Exercise)

    • 顔・首・肩の優しい運動でリンパの流れを促進します。

  4. スキンケア (Skin Care)

    • 乾燥や感染を防ぎ、皮膚の健康を守ります。

 

理学療法士の役割

理学療法士（リンパ浮腫の専門トレーニングを受けたPT）は、CDTを安全に行うために重要な役割を担います：

  • MLDを施術し、簡単な自己マッサージ法を指導。

  • 首・あご・肩の運動を指導し、柔軟性を維持。

  • 患者に合った圧迫製品・機器を選定し、フィッティング。

  • 姿勢や睡眠時の工夫（例：枕で頭を高くする）をアドバイス。

 

自己管理の工夫

長期的なコントロールには毎日のセルフケアが重要です：

  • 自己マッサージ：顎下から首へと優しく流す動き。

  • 体位工夫：枕で頭を高くして寝る、長時間下を向かない。

  • 顔の運動：笑顔をつくる、ほほをふくらませる、舌やあごの動きを行う。

  • 圧迫製品の継続使用：指導に沿って日常的に着用。

圧迫製品と機器:

1. Chin Straps（チンストラップ）

  • 特徴：あご下から頭に回す形で、軽〜中等度の圧迫。

  • 適応：軽度の腫れ、夜間使用、圧迫初心者。

  • 代表例：

    • JOBST® Chin Strap – ソフト素材、調整可能。

    • JoviPak® Chin Strap – フォームパッド入りで輪郭にフィット。

    • Sigvaris ChipPad® Chin Strap – 小さなフォームチップ入りで硬さをやわらげる。

 

2. Custom Facial Masks（オーダーメイドマスク／平編みタイプ）

  • 特徴：顔・首の形に合わせたカスタム製作。強くしっかりと圧迫。

  • 適応：中〜重度の腫れ、不規則な形、長期管理。

  • 代表例：

    • Medi 550 Flat-Knit Custom Face Mask – 強力で耐久性あり。

    • JOBST® Elvarex® Custom Facial Garment – 信頼性の高い平編みタイプ。

    • Juzo Expert® Face Mask – ソフトで敏感肌に適する。

 

3. Foam/Padded Garments（フォームやパッド入り製品）

  • 特徴：硬くなった組織に部分的な圧を加える。通常はチンストラップやマスクと併用。

  • 適応：放射線線維化や硬い腫れ。

  • 代表例：

    • JoviPak® Face Mask with Inserts – カスタマイズ可能なフォーム入り。

    • Tribute® Wrap Neck & Face – やわらかく夜間使用に適する。

    • Swedish ChipPad® Inserts – 他の製品の下に追加して使用。

 

4. Pneumatic Compression Devices（空気圧式機器）

  • 特徴：空気で膨らむカフが周期的に圧をかける。

  • 適応：中〜重度で持続する腫れ、通常の圧迫で不十分な場合。

  • 代表例：

    • Flexitouch® Plus Head & Neck System – 頭頸部専用に設計。

    • Lympha Press® PCD-Eln – 多チャンバーで輪郭にフィット。

    • ArtAssist® Pump with Custom Facial Garment – 一部の施設で使用。

  • 利点/欠点：高い効果がある一方で、費用が高く、使用には指導が必要。

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まとめ:

​顎下部・顔面リンパ浮腫は頭頸部がん治療後によく見られる合併症ですが、Complete Decongestive Therapy (CDT) によって管理可能です。CDTはマッサージ、圧迫、運動、スキンケアを組み合わせた包括的な方法で、理学療法士の指導と日々の自己管理が成功の鍵となります。圧迫製品にはチンストラップからオーダーメイドマスク、パッド入り製品、高度な空気圧機器までさまざまな選択肢があり、患者ごとの状態に合わせて組み合わせることが大切です。

科学的参考文献（Scientific References）:

  • Deng, J., Ridner, S. H., Dietrich, M. S., Wells, N., Wallston, K. A., Sinard, R. J., Cmelak, A. J., & Murphy, B. A. (2012). Prevalence of secondary lymphedema in patients with head and neck cancer. Journal of Pain and Symptom Management, 43(2), 244–252. https://doi.org/10.1016/j.jpainsymman.2011.03.018

  • International Society of Lymphology. (2020). The diagnosis and treatment of peripheral lymphedema: 2020 Consensus Document of the International Society of Lymphology. Lymphology, 53(1), 3–19.

  • Ridner, S. H., Dietrich, M. S., Niermann, K., Cmelak, A., Mannion, K., & Murphy, B. (2016). A prospective study of lymphedema in head and neck cancer patients. Laryngoscope, 126(6), 1264–1269. https://doi.org/10.1002/lary.25754

  • Smith, B. G., Lewin, J. S., & Chambers, M. S. (2015). Lymphedema management in head and neck cancer. Current Opinion in Otolaryngology & Head and Neck Surgery, 23(2), 153–160. https://doi.org/10.1097/MOO.0000000000000136

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