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がん治療後のケア

がん治療後の疲労:
なぜ起こるのか、どうすれば改善できるのか

多くのがんサバイバーは、治療が終わればすぐに体力や元気が戻ると期待します。ところが、治療後に続く疲れ——がん関連疲労(Cancer-Related Fatigue, CRF)——は最も一般的で厄介な症状のひとつです。CRFは「普通の疲れ」とは違い、とても重く感じられ、睡眠で十分に回復せず、仕事・家庭・日常生活に大きく影響します(National Cancer Institute, 2024)。ですが、これは実際に多くの人が経験する現実であり、正しい工夫で改善が可能です。

がん関連疲労はどのくらい多い?:

  • 治療中: 約 60〜65% の患者が強い疲労を経験します (Al Maqbali et al., 2021)。

  • 治療直後: 治療終了から3か月以内でも、約 半数 が疲労を訴えます (Al Maqbali et al., 2021)。

  • 治療後1年以上: 約 3人に1人 が疲労を感じ続けています (Thong et al., 2025)。

  • 長期サバイバー: 治療から5〜10年後でも、約 30% の人が慢性的な疲労を抱えています (Thong et al., 2025)。

  • 重症度: 約 4人に1人 が「強い疲労」と評価しますが、医療者側が軽く見てしまうこともあります (Kang et al., 2023)。

なぜがん治療後に疲労が起こるのか?:

CRFは多くの要因が重なって起こる複雑な症状です。代表的なメカニズムをわかりやすくまとめると:

1. 免疫系と炎症の変化

化学療法や放射線治療、免疫療法は、体内で炎症反応を引き起こします。その結果、サイトカイン(IL-6やTNF-αなど)と呼ばれる物質が増加し、脳や筋肉に影響を与え、強い疲労感を引き起こします (Bower, 2019)。

2. エネルギーとホルモンの調整の乱れ

治療によって、体が本来持つ「エネルギー管理システム」が乱れることがあります。

  • ストレスホルモン(コルチゾールなど)の調整異常

  • 細胞のエネルギー工場(ミトコンドリア)の機能低下

  • 自律神経系(心拍や体温などを自動で調整するシステム)のバランスの乱れ

これらの変化により、体は効率よくエネルギーを作れず、慢性的な疲労を感じやすくなります (Bower, 2019)。

3. 疲労を悪化させる健康問題

直接がんが原因ではなくても、次のような要因が疲労を強めます:

  • 貧血

  • 甲状腺機能低下症

  • 薬の副作用(鎮痛薬、睡眠薬など)

  • 慢性的な痛み

  • 睡眠障害や睡眠時無呼吸

  • 栄養不良や脱水

これらは治療可能な場合も多いので、医師に相談することが大切です (National Cancer Institute, 2024)。

4. 精神的・心理的要因

がんは体だけでなく心にも影響します。不安や抑うつ、再発への恐れ、治療後の生活への適応困難などが疲労を増幅させます。心理的サポートやカウンセリングは、疲労を軽減する有効な手段です (Mustian et al., 2017)。

5. 体力低下(ディコンディショニング)

治療や長期の安静で体を動かさない時間が増えると、筋力や持久力が低下します。その結果、階段を上る・買い物をするなどの日常動作さえも重労働に感じ、さらに疲労を感じやすくなるという悪循環が起こります。

がん関連疲労を改善する方法:

ステップ1:まずはチェック

医師に相談し、貧血・甲状腺の問題・睡眠障害・薬の副作用など、治療可能な原因がないか確認してもらいましょう (National Cancer Institute, 2024)。

ステップ2:体を動かす(安全に、少しずつ)

運動は最も効果的な治療法であり、薬よりも効果があることが示されています (Mustian et al., 2017)。

  • 理学療法士(Physical Therapist, PT)の役割

    • 理学療法士は、がん治療後の体の状態を評価し、次のようなサポートをします:

      • 筋力・柔軟性・バランスを評価

      • 手術や放射線後の制限、リンパ浮腫、神経障害などに配慮した個別運動プログラムを作成

      • 安全な動作やエクササイズの指導

      • 「動きすぎて疲れてしまう → 寝込む」という悪循環を避けるためのペース配分の指導

 

  • 運動プログラム例(少しずつ、段階的に)

    • ウォーキング(有酸素運動)

      • 1〜2週目: 10分 × 週4〜5回、無理のない速さで歩く

      • 3〜4週目: 15〜20分に延長

      • 5〜6週目: 25〜30分を目安に歩く

      • 最終目標: 週合計150分程度の中等度運動 (Campbell et al., 2019)​

    • 筋力トレーニング(週2回)

      • 椅子からの立ち上がり運動(スクワット代用) 10〜12回 × 2セット

      • 壁押し腕立て伏せ 10〜12回 × 2セット

      • セラバンドやペットボトルを使ったアームカール 10〜12回 × 2セット

      • かかと上げ運動 10〜15回 × 2セット

 

 

ポイント: 軽めから始め、息が上がりすぎず「少し頑張った」程度で終えるのが目安。症状が強く出た場合は負荷を減らして継続しましょう。

ステップ3:睡眠とストレスを整える

  • 認知行動療法(CBT-I)は不眠の改善に効果があり、疲労改善にもつながります (Greeley et al., 2025)。

  • ヨガ、太極拳、マインドフルネスなどのリラクゼーション法は、ストレス軽減と疲労回復に役立ちます (Bower et al., 2024)。

 

ステップ4:エネルギーを節約する

  • 体力がある時間帯に大きな予定を入れる

  • 疲れ切る前に休憩を取る

  • 家事や買い物は分割して行う、または家族や友人に協力を依頼する (NCCN, 2024)。

 

ステップ5:その他の方法

  • 鍼灸や指圧は一部の人に効果が見られます (Bower et al., 2024)。

  • サプリメント: 多くは効果が証明されていませんが、アメリカ人参は治療中の疲労軽減に一定の効果があると報告されています (Fabi et al., 2020)。必ず主治医に相談しましょう。

  • 薬物療法: 興奮剤や抗うつ薬は、別の病気を伴う場合を除き routine 使用は推奨されません (Bower et al., 2024)。進行がんでは短期間のステロイドが有効な場合もあります (Fabi et al., 2020)。

まとめ:

がん関連疲労は非常によくある症状で、治療後も長く続くことがあります。しかし、

  • 医療チェックで原因を見極める

  • 理学療法士と一緒に安全に運動を始める

  • 睡眠とストレスを改善する

  • 日常生活での工夫でエネルギーを節約する

 

これらを組み合わせることで、多くの人が体力と生活の質を取り戻すことができます。

科学的参考文献:

  • Al Maqbali, M., Al Sinani, M., Al Naamani, Z., & Al Badi, K. (2021). Prevalence of fatigue in patients with cancer: A systematic review and meta-analysis. Journal of Pain and Symptom Management, 61(1), 167–189.

  • Bower, J. E. (2019). The role of neuro-immune interactions in cancer-related fatigue: Biobehavioral risk factors and mechanisms. Cancer, 125(3), 353–364.

  • Bower, J. E., et al. (2024). Management of fatigue in adult survivors of cancer: ASCO–Society for Integrative Oncology Guideline Update. Journal of Clinical Oncology, 42(20), 2456–2487.

  • Campbell, K. L., Winters-Stone, K. M., et al. (2019). Exercise guidelines for cancer survivors. Medicine & Science in Sports & Exercise, 51(11), 2375–2390.

  • Fabi, A., et al. (2020). Cancer-related fatigue: ESMO Clinical Practice Guidelines. Annals of Oncology, 31(6), 713–723.

  • Greeley, K. M., et al. (2025). Mechanisms of CBT-I effects on fatigue in cancer survivors. Sleep, 48(6), zsaf014.

  • Kang, Y.-E., Yoon, J.-H., Park, N.-H., et al. (2023). Prevalence of cancer-related fatigue based on severity: A systematic review and meta-analysis. Scientific Reports, 13, 12815.

  • Mustian, K. M., Alfano, C. M., Heckler, C., et al. (2017). Comparison of pharmaceutical, psychological, and exercise treatments for cancer-related fatigue: A meta-analysis. JAMA Oncology, 3(7), 961–968.

  • National Cancer Institute. (2024). Fatigue (PDQ®)–Patient Version. https://www.cancer.gov/

  • NCCN Guidelines for Patients: Cancer-Related Fatigue (2024). National Comprehensive Cancer Network. https://www.nccn.org/

  • Thong, M. S. Y., Doege, D., Koch-Gallenkamp, L., et al. (2025). Fatigue in long-term cancer survivors: Prevalence, associated factors, and mortality. British Journal of Cancer.

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