リンパ浮腫の管理と治療
圧迫衣と機器の種類:
人気の選択肢と特徴比較
乳がんの手術や治療の後、多くの方が「どんなブラジャーを着ければ快適で、回復に役立つのか?」と悩みます。正しく選ばれたコンプレッションブラは、痛みの軽減や安心感につながり、体が回復していく過程で大きな支えになります。必ずしも全員に必要というわけではありませんが、選択肢を理解し、安全に活用することがとても大切です。
なぜコンプレッションブラなのか?:
しっかりフィットするサポートブラは、手術直後の痛みをやわらげ、組織を支えることで安心感を与えます。さらに、コンプレッションブラや強めのスポーツブラは、乳房や胸壁(体幹)の浮腫(リンパ浮腫)対策にも用いられることがあります。
研究では、手術後3週間に安定した圧迫ブラを使うと痛みが軽減したという報告がある一方で、放射線治療後の乳房浮腫では、圧迫ブラでも通常のブラでも改善が見られたという結果もあります(Johanssonら, 2020; OptiBra RCT, 2023; Verbelenら, 2021)。
まとめると: コンプレッションブラは「必ず必要」というより、「合う人には有効」。フィット感や快適さを重視し、主治医やリハビリチームのアドバイスに従うことが最も大切です(NCCN, 2024; ISL, 2020)。
誰におすすめか?:
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手術直後(部分切除、乳房切除、再建術、縮小術など)
ワイヤーなし、前開き、ソフトでサポート性のあるブラ。軽い圧迫を伴うものもあり、最初の数週間に快適さと安定を与えます。
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乳房・胸壁のリンパ浮腫がある場合
スキンケア、運動、徒手リンパドレナージに加えて、適切にフィットしたコンプレッションブラやベスト、パッドの使用が選択肢になります。
デザインや特徴で見るポイント:
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前開き(ジッパーやホック):腕を上げにくい時期でも着脱が楽。
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ワイヤーなし・縫い目がやさしい素材:皮膚トラブルを避け、幅広ストラップで荷重を分散。
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脇の下までの高さ:腋窩や側胸部のむくみに対応。
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ベストタイプ:胸壁や背部の浮腫がある場合に有効。
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ポケット付き:乳房パッドやスウェルスポットを入れて局所的に圧迫可能。
※圧迫スリーブと違い、ブラは「mmHg」ではなく「軽・中・強」と表記されることが多いです。数値よりも、快適さと効果を優先してください。
サイズとフィッティング:
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手術や放射線後は1年間ほど体型変化が続くため、定期的にサイズを測り直すことが大切です。
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アンダーバストとトップバストを測定し、ブランドのサイズ表を確認。S~3XL表記では、前後のサイズを試すのがおすすめ。
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可能なら認定フィッター(乳がん術後補整・リンパ浮腫対応)に相談すると安心です。
着用のタイミングと期間:
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手術直後: 多くの医師は2〜6週間、日中・夜間を通しての着用を推奨(入浴時のみ外す)。その後は快適さに応じて徐々に調整。
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リンパ浮腫の場合: 日中や活動時に着用。腫れが出やすい場面(長時間立位、運動後など)に合わせて調整。
着用の実際(ポイント):
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一番ゆるいホック/ジッパーから始め、必要なパッドを入れて前で閉める。
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バンドや側面の確認:食い込みや「縄状の跡」が残らないかチェック。
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呼吸・腕の動きを確認:圧迫が強すぎず、深呼吸や腕上げが可能か。
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時間帯で再チェック:浮腫は朝と夜で変化するため、その都度調整。
主な製品の比較:
Prairie Wear HuggerPRIMA
しっかりとしたニット構造で中〜高圧のサポート。術後直後や中等度の体幹浮腫に適しています。安定性が高い一方、柔らかさはやや少なめ。
Prairie Wear HuggerVIDA
ソフトで柔軟性のあるデザイン。移行期や日常、睡眠時に快適。圧迫は中〜低圧で、長時間の着用に適しています。
Amoena Patricia ベスト
胸から背部まで覆うベストタイプ。軽い圧迫で、ドレーンやポートがある方にも便利。広範囲をやさしくサポートします。
Wear Ease Sydney 780
脇下や背中のカバー範囲が広く、腫れが「横に流れる」ケースに有効。プルオン式で日常的に使いやすい。
Anita Lymph-O-Fit
内側に特殊な凹凸(テクスチャー)加工があり、リンパの流れを促す効果が期待されます。慣れが必要ですが、組織が硬くなった部位に有効です。
Amoena CuraLymph ライン
リンパ浮腫用に設計されたシリーズ。やさしい圧迫で、ステージ1リンパ浮腫や軽度浮腫のケアに向いています。サイズ展開が広く、快適さと医療的効果を両立。
L&R/JoViPak スウェルスポット & パッド
フォームパッドをブラのポケットに入れて使用し、局所的に圧を加えます。線維化や部分的なむくみに効果的で、他のブラと組み合わせて使えます。

注意点:
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開いた傷、皮膚炎、感染がある場合は使用中止。
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心不全や肺水腫がある場合は禁忌。安定した心不全でも必ず医師の指導下で。
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重度の動脈疾患がある場合も強い圧迫は避けるべき。
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快適さが最優先。息苦しさやしびれが出た場合はサイズ変更や別製品を検討。
スタートの流れ:
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主治医・リハビリチームに相談して、最初のブラのタイプを確認。
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2サイズ試着し、前開き・ワイヤーなし・脇高めのタイプを選ぶ。
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手術後最初の数週間は日中夜間とも着用(指示がある場合)。その後は快適さに応じて調整。
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1か月ごとに見直し、回復やむくみの変化に合わせて最適なブラを更新
科学的参考文献(Scientific References):
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Cornacchia, C., et al. (2022). Breast edema after conservative surgery for early-stage breast cancer. Lymphology.
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Executive Committee of the International Society of Lymphology. (2020). The diagnosis and treatment of peripheral lymphedema: 2020 consensus document. Lymphology, 53(1), 3–19.
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Johansson, K., et al. (2020). Compression treatment of breast edema: A randomized controlled pilot study. Lymphatic Research and Biology.
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Morgan, R. L., et al. (2020). ONS Guidelines™ for cancer treatment–related lymphedema. Oncology Nursing Society.
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NCCN. (2024). Survivorship: Patient Guidelines.
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OptiBra Study Group. (2023). Optimal bra after breast cancer surgery—stable bra with compression reduces early pain. The Breast.
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Rabe, E., et al. (2020). Risks and contraindications of medical compression treatment. Phlebology/Lymphology.
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Saini, R., et al. (2024). Brassiere-wearing practices and issues among post-surgical breast cancer survivors: Systematic review. Patient Preference and Adherence.
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Verbelen, H., et al. (2021). Breast edema after breast-conserving therapy: State of the art. Archives of Physiotherapy.
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Breast Cancer Now. (n.d.). Bras after surgery for breast cancer.