一般的な健康とウェルネス
五十肩(凍結肩)・
肩関節周囲炎:
かたまった肩を理解して上手に付き合う方法
ジャケットを着ようとしたり、背中をかこうとしたり、高い棚の物を取ろうとしたときに、肩がまるでコンクリートになったように動かない――それが「五十肩(凍結肩)」です。名前は少し怖いですが、雪や氷のケガではありません。実は「肩が固まる」状態のこと。朗報は、適切なケアと少しの忍耐で、ほとんどの方が手術なしで回復できるということです。
五十肩とは?:
五十肩/凍結肩(医学的には 肩関節周囲炎/Adhesive Capsulitis)は、肩関節を包む関節包が厚くなり、炎症や癒着によって硬くなり、肩の動きが制限されてしまう状態です。40〜60歳に多く、特に女性に起こり やすいとされています(Zuckerman & Rokito, 2011)。
リスクが高い人:
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糖尿病:糖尿病患者の約20%に発症する可能性があります(King et al., 2017)。
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甲状腺疾患:バセドウ病や橋本病など。
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ケガや手術後の安静:長期間肩を動かさないと発症しやすい。
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その他の病気:心疾患、パーキンソン病、脳卒中の既往など(Hand et al., 2008)。
五十肩の進行段階:
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疼痛期(2〜9か月):夜間の痛みが強く、だんだん動かせなくなる。
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拘縮期(4〜12か月):痛みは少し落ち着くが、肩がガチガチに固まる。
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回復期(5〜24か月):徐々に動きが戻り、生活が楽になる。
👉 いったんこのサイクルに入ると「出口がない」と感じるかもしれませんが、実際には各段階を通り抜ける必要があります。五十肩はほとんどの場合この経過をたどりますが、治療によって「時間を短く」「症状を軽く」することが可能です(Hand et al., 2008; Kelley et al., 2013)。
原因:
正確な原因はまだ分かっていません。現在考えられているのは、肩関節内の炎症がきっかけで関節包が硬く縮み、肩が「袋に締め付けられる」ような状態になることです。ケガや手術後に長期間動かさない場合にリスクが高まります(Zuckerman & Rokito, 2011)。
治療法:
1. 理学療法(リハビリ)
五十肩の治療の中心は 理学療法(Physical Therapy: PT) です。
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PTで行うこと
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関節モビライゼーション(手技による関節包の柔軟化)
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無理のないストレッチや可動域訓練
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ローテーターカフや肩甲骨周囲の筋力強化
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日常生活での工夫や自己管理の指導
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研究結果
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PT+自主トレーニングは「自然経過を待つ」より回復を早める(Page et al., 2014)。
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PTあり:6〜12か月で機能回復する人が多い。
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PTなし:12〜36か月かかる場合が多く、可動域の制限が残りやすい(Hand et al., 2008)。
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2. ステロイド注射(コルチゾン注射)
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タイミング:最も効果的なのは「疼痛期」の早期。
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効果:炎症と痛みを和らげ、リハビリを進めやすくする(Sun et al., 2018)。
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限界:拘縮が進んだ時期は効果が低下。
3. 薬物療法
NSAIDs(イブプロフェンなど)は痛みを軽減し、ストレッチがやりやすくなります。
4. その他の医療処置
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関節包拡張術(ハイドロダイラテーション):生理食塩水+ステロイドを注入して関節包を広げる。
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全身麻酔下での徒手操作や関節鏡下手術:重度で改善が見られない場合に選択。
自宅でできるセルフエクササイズ:
(毎日実施を目安に。開始前に10分ほど温めると効果的です。)
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振り子運動(Pendulum Swing)
前かがみになり、腕をぶら下げて小さく円を描く。-
1〜2分
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壁歩き(Wall Walk)
指先を壁につけ、少しずつ上に歩かせるように上げる。-
10秒保持 × 10回
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クロスボディストレッチ
片腕を胸の前に持ってきて、反対の手で軽く引き寄せる。-
20秒保持 × 5〜10回
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タオルストレッチ(内旋)
背中にタオルを持ち、もう片方の手で上に引き上げる。-
15〜30秒保持 × 5〜10回
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自分でやっていいこと/避けること:
✅ やっていいこと
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ストレッチ前に温める
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痛みの範囲で毎日少しずつ動かす
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全身の運動(ウォーキングなど)も継続
❌ 避けること
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鋭い痛みが出るまで無理に動かす
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完全に安静にしてしまう
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「すぐ治る」と期待しすぎる(時間がかかる病気です)
まとめ:
五十肩は「不便でイライラする肩」ですが、永遠に続くものではありません。理学療法や適切な注射、日々のセルフケアを組み合わせれば、多くの人は元の生活に戻れます。春の雪解けのように、時間とともに必ず改善していきます。
参考文献
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Hand, C., Clipsham, K., Rees, J. L., & Carr, A. J. (2008). Long-term outcome of frozen shoulder. Journal of Shoulder and Elbow Surgery, 17(2), 231–236. https://doi.org/10.1016/j.jse.2007.05.009
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Kelley, M. J., Shaffer, M. A., Kuhn, J. E., Michener, L. A., Seitz, A. L., Uhl, T. L., ... & McClure, P. W. (2013). Shoulder pain and mobility deficits: adhesive capsulitis. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 43(5), A1–A31. https://doi.org/10.2519/jospt.2013.0302
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King, T., Jones, G., & Kok, J. (2017). The association between diabetes and shoulder disorders: a review of the literature. Current Diabetes Reviews, 13(3), 266–270. https://doi.org/10.2174/1573399812666160606104945
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Page, M. J., Green, S., Kramer, S., Johnston, R. V., McBain, B., Chau, M., ... & Buchbinder, R. (2014). Manual therapy and exercise for adhesive capsulitis (frozen shoulder). Cochrane Database of Systematic Reviews, 2014(8), CD011275. https://doi.org/10.1002/14651858.CD011275
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Sun, Y., Lu, S., Zhang, P., Wang, Z., & Chen, J. (2018). Steroid injection versus physiotherapy for patients with adhesive capsulitis of the shoulder: a PRISMA systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Medicine, 97(31), e11405. https://doi.org/10.1097/MD.0000000000011405
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Yang, J. L., Chang, C. W., Chen, S. Y., Wang, S. F., & Lin, J. J. (2007). Mobilization techniques in subjects with frozen shoulder syndrome: randomized multiple-treatment trial. Physical Therapy, 87(10), 1307–1315. https://doi.org/10.2522/ptj.20060079
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Zuckerman, J. D., & Rokito, A. (2011). Frozen shoulder: a consensus definition. Journal of Shoulder and Elbow Surgery, 20(2), 322–325. https://doi.org/10.1016/j.jse.2010.07.008