一般的な健康とウェルネス
ルーティンの力:
コンプライアンスと健康を高める方法
健康的な生活は「やる気」だけでは続きません。大事なのは、正しい選択を自然とできるようにする「仕組みづくり」です。歯みがきのように「やる気スイッチ」を押さなくても習慣になってしまえば強い味方になります。行動医学や神経科学の研究でも、ルーティンは脳と体の効率を高め、健康的な習慣を続けやすくすることが示されています(Lallyら, 2010)。
なぜルーティンが効果的なのか — 科学的背景
脳の負担を減らす
脳は意外と大食いで、決断するたびにエネルギーを消費します。毎日同じ時間に運動するなど「決まった計画」を持つと「意思決定疲れ」(Baumeisterら, 1998)が減り、その分ほかの大事なことに集中できます。
豆知識:有名なCEOの中には毎日同じ服を着る人もいます。ファッションが嫌いなのではなく、決断のエネルギーを節約しているのです。
習慣の通り道を強化する
同じ行動を同じ時間・場所で繰り返すと、脳の線条体(基底核)が働き、習慣が形成されます(Graybiel, 2008)。つまり、繰り返すほどに脳が「これはいつもの流れだね」と認識し、気づけば無意識に行動できるようになります。まるで、半分寝ぼけながらコーヒーを淹れてしまうような感じです。
体内時計に合わせる
私たちの体は「サーカディアンリズム」と呼ばれる24時間周期で動いています。運動、食事、睡眠を規則正しく行うと、ホルモンや消化、エネルギーが整いやすくなります(Buxtonら, 2012)。
ちなみに、時差ボケがつらいのは体内時計が「突然の予定変更」を嫌うからです。
行動の勢いをつける
小さな行動の積み重ねは脳の報酬系を刺激し、やる気ホルモンであるドーパミンを放出します(Schultz, 2015)。これは脳からの「よくできました!」スタンプのようなもので、スタンプが増えるほど行動を続けやすくなります。
実践のポイント:
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小さく始める
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生活全体を一気に変えようとせず、1〜2個の習慣から始めましょう。
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習慣をつなげる
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既存の習慣に新しい習慣をくっつける(例:歯みがき後にストレッチ、朝のコーヒー後に水を一杯)。
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現実的に
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理想の自分ではなく、「今の生活」に合わせた時間と内容を選びましょう。
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例:
「今月はもっと運動しよう」と漠然と言う代わりに、具体的で繰り返しやすい計画を立てます。
「毎晩、夕食のあとに15分間ウォーキングをする。」
これを続けていると、やがて日課の一部となり、歯みがきと同じくらい「やらないと気持ち悪い」ものになります。
参考文献
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Baumeister, R. F., Bratslavsky, E., Muraven, M., & Tice, D. M. (1998). Ego depletion: Is the active self a limited resource? Journal of Personality and Social Psychology, 74(5), 1252–1265.
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Buxton, O. M., Cain, S. W., O’Connor, S. P., Porter, J. H., Duffy, J. F., Wang, W., Czeisler, C. A., & Shea, S. A. (2012). Adverse metabolic consequences in humans of prolonged sleep restriction combined with circadian disruption. Science Translational Medicine, 4(129), 129ra43.
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Graybiel, A. M. (2008). Habits, rituals, and the evaluative brain. Annual Review of Neuroscience, 31, 359–387.
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Lally, P., Van Jaarsveld, C. H., Potts, H. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009.
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Schultz, W. (2015). Neuronal reward and decision signals: From theories to data. Physiological Reviews, 95(3), 853–951.