がん治療後のケア
頭頸部がんと共に生きる:
治療、副作用、リハビリ
頭頸部がんは口腔、咽頭、声帯などに発生します。手術や放射線治療、化学療法などの進歩により生存率は高まりましたが、その一方で「食べる・話す・動く」といった日常生活に大きな影響を残すことがあります。治療後の回復にはチームでの支援が欠かせません。理学療法士、言語聴覚士、栄養士、心理士など多職種が連携し、患者さんの生活の質を取り戻すサポートを行います。
1. 頭頸部がんの主な治療法:
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手術:腫瘍やリンパ節を切除。がんを取り除く効果は高いが、嚥下や発声、肩の機能に影響することがある(National Cancer Institute [NCI], 2024)。
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放射線治療:がん細胞を破壊するが、口の乾きや嚥下障害、首や肩のこわばりを引き起こすことがある(Bensadoun et al., 2020)。
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化学療法:薬剤でがんを攻撃。倦怠感、吐き気、しびれ、免疫力低下などがみられる(NCI, 2024)。
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分子標的薬・免疫療法:がん細胞の特定部分を狙ったり、免疫を活性化する新しい治療。副作用は少なめだが、甲状腺や皮膚、嚥下機能に影響することもある(Mehanna et al., 2021)。
2. 治療後によくみられる副作用:
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嚥下障害(食べ物や水を飲み込みにくい)― 筋力低下や瘢痕による(Logemann, 2019)。
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首や肩のこわばり ― 頸部郭清術の後に多い(McGarvey et al., 2015)。
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口腔乾燥(ドライマウス) ― 放射線による唾液腺の損傷が原因(Bensadoun et al., 2020)。
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声・発話の変化 ― 手術や放射線で声帯や筋肉に影響(Merrill et al., 2020)。
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倦怠感・体力低下 ― 化学療法や放射線後に一般的(Bower, 2019)。
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リンパ浮腫 ― 顔や首の腫れ。リンパ節切除や放射線後に発生(Ridner et al., 2021)。
3. 多職種によるリハビリテーション:
頭頸部がん治療後のリハビリテーションは、それぞれの専門家が特定のニーズに対応することで最も効果的になります。
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言語聴覚療法(ST):
嚥下訓練、発話の明瞭さ、安全な食事方法に焦点を当てます。嚥下筋のエクササイズや特殊な嚥下テクニックにより、むせや誤嚥を防ぐことができます(Carnaby-Mann & Crary, 2008)。
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栄養・食事療法:
嚥下の難しさや味覚の変化があっても、必要なカロリーや水分を維持できるよう支援します。食事形態の工夫や栄養補助食品が必要になることもあります(Ravasco, 2010)。
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作業療法(OT):
日常生活の自立をサポートし、補助具の使用を助け、倦怠感やエネルギーの節約方法に対応します(Silver et al., 2015)。
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心理療法・カウンセリング:
治療後に起こりやすい不安、抑うつ、ボディイメージの問題に取り組みます(Reeve et al., 2014)。
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理学療法(PT):
動作の回復、腫れ(浮腫)の軽減、筋力回復に大きな役割を果たします ― この点については後で詳しく説明します。

4. 理学療法(PT):機能回復と副作用の軽減:
理学療法は、頭頸部がん治療後の身体的な問題に直接アプローチし、日常生活の質を高める中心的な役割を担います。
a. 首・肩のリハビリ
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手術や放射線後のこわばりや筋力低下に対し、ストレッチや可動域訓練、筋力強化運動を行う(McNeely et al., 2019)。
b. リンパ浮腫の管理
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顔や首の腫れを軽減するため、リンパドレナージ、圧迫、姿勢指導を行う(Ridner et al., 2021)。
c. 顎の可動域(開口障害・トリスマス)
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放射線後に口が開きにくくなる症状に対して、開口ストレッチ、徒手療法、開口補助器具を用いる(van der Molen et al., 2011)。
d. 倦怠感・体力回復
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有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせにより、エネルギー・体力・生活機能を改善する(Mustian et al., 2017)。
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個々の状態に合わせた安全な運動プログラムを作成。
5. 治療後の生活をよりよくするために:
がんの治療は「がんをなくすこと」だけではなく、「再び自分らしく生きること」がゴールです。
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話す・食べる・動く力を取り戻す
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首・肩・顎の可動域を改善する
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腫れや倦怠感をコントロールする
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仕事や社会活動、趣味に自信を持って復帰する
多職種チームの支援を受けることで、がん治療後の生活はより前向きで充実したものになります。特に理学療法は、その中心的役割を担っています。
科学的参考文献:
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Bensadoun, R. J., et al. (2020). Radiotherapy-induced side effects: incidence, management, and prevention. Supportive Care in Cancer, 28(10), 4751–4760.
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Bower, J. E. (2019). Cancer-related fatigue—mechanisms, risk factors, and treatments. Nature Reviews Clinical Oncology, 16(3), 165–178.
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Carnaby-Mann, G., & Crary, M. (2008). Examining the evidence on neuromuscular electrical stimulation for swallowing. Dysphagia, 23(4), 322–330.
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Logemann, J. A. (2019). Evaluation and treatment of swallowing disorders. Austin: PRO-ED.
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McGarvey, A. C., et al. (2015). Shoulder dysfunction following neck dissection: prevalence and risk factors. Head & Neck, 37(3), 375–379.
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McNeely, M. L., et al. (2019). Exercise interventions for shoulder dysfunction in patients treated for head and neck cancer. Cochrane Database of Systematic Reviews, (5).
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Mehanna, H., et al. (2021). Immunotherapy in head and neck cancer: current status and future directions. British Journal of Cancer, 125(7), 1023–1033.
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Merrill, R. M., et al. (2020). Speech and voice outcomes in patients with head and neck cancer. Journal of Voice, 34(4), 561–568.
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Mustian, K. M., et al. (2017). Exercise for the management of cancer-related fatigue in adults. Cochrane Database of Systematic Reviews, (11).
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National Cancer Institute (NCI). (2024). Head and neck cancers—treatment (PDQ®)–Patient version. NIH.
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Ravasco, P. (2010). Nutrition in cancer patients. Journal of Clinical Medicine, 29(2), 171–181.
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Reeve, B. B., et al. (2014). Impact of cancer treatment on psychological well-being. Psycho-Oncology, 23(5), 547–556.
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Ridner, S. H., et al. (2021). Lymphedema in head and neck cancer survivors: incidence, diagnosis, treatment, and outcomes. Cancer, 127(6), 748–758.
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Silver, J. K., et al. (2015). The role of rehabilitation in cancer care. CA: A Cancer Journal for Clinicians, 65(2), 123–144.
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van der Molen, L., et al. (2011). Trismus in head and neck cancer patients: etiology, prevention, and treatment. Oral Oncology, 47(5), 452–457.