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がん治療後のケア

がん治療後の
ケアのタイミング

がん治療後のリハビリは、始める「タイミング」によって、回復のスピードや安全性に大きな違いが生まれます。治療直後に無理をすると、まだ癒えていない組織に負担がかかり回復を妨げる可能性があります。一方で、開始が遅れすぎると、関節のこわばり、慢性的な疲労、リンパ浮腫の進行など、将来的な合併症のリスクが高まります。

リハビリや運動、手技療法を始める前には、主治医(腫瘍内科医や外科医)、あるいは医療チームに相談することが大切です。がんリハビリやリンパ浮腫ケアに精通した理学療法士(PT)が、あなたの状態に合わせて適切なタイミングと強度を判断し、安全で効果的なリハビリをサポートしてくれます。

リハビリを始めるのが早すぎると、どうなるの?

がん治療直後の体は、まだ回復の途中にあり、組織が非常にデリケートな状態です。この時期に無理にリハビリを始めてしまうと、次のようなリスクがあります:

  • 傷口や術部に負担がかかり、回復が遅れる

  • リンパ管や血管への過度な刺激により、リンパ浮腫を引き起こす/悪化させる

  • 疲労感や痛みが強まり、日常生活の質が下がる

  • 炎症や組織損傷のリスクが高まる

 

早く回復したいという気持ちは自然ですが、体が回復する準備が整っていないうちに負荷をかけると、かえって遠回りになることもあります。リハビリの開始時期は人それぞれです。主治医や、がんリハビリに詳しい理学療法士と相談しながら、安全なタイミングを見極めることが大切です。

リハビリを始めるのが遅すぎると、どうなるの?

リハビリの開始が遅れると、回復に悪影響を及ぼすことがあります。特にがん治療後は、早すぎても遅すぎてもリスクがあるため、適切なタイミングが重要です。

リハビリが遅れることで起こりうる問題:

  • 関節や筋肉のこわばりが進行し、可動域が制限される

  • 筋力や持久力が低下し、日常生活に支障が出る

  • リンパ浮腫が慢性化・進行しやすくなる

  • 疲労感や痛みが長引く

  • 「動くこと」に対する不安が強くなり、活動量がさらに減る

 

つまり、「何もしない」時間が長すぎると、体も心も回復しづらくなるのです。安心してリハビリを始めるためにも、治療後の体の状態を理解した専門家(理学療法士や医師)に相談し、最適なスタート時期を一緒に見つけていきましょう

がん治療後リハビリの「理想的なタイミング」

がん治療後にリハビリを開始する「理想的なタイミング(ウィンドウ)」は、
がんの種類や治療内容(手術・放射線・化学療法)、そして個々の回復状況によって異なります。

とはいえ、近年の研究では、個々に合わせて調整された早期介入が、適切な時期に行えば、
安全かつ効果的であることが示されています。

以下に一般的なガイドラインを記載していますが、がん治療後のケアは「万人共通」ではありません。
大切なのは、自分の体の声に耳を傾け、無理のないペースでリカバリーを進めること、
そしてがん治療やリハビリに理解のある専門家と連携することです。

治療直後(0〜2週間)

フォーカス:教育・呼吸・体位・軽い動き

適応対象:医師の許可があり、合併症リスクのない患者さん

推奨される活動内容:

  • 横隔膜呼吸(腹式呼吸)で肺機能の低下や合併症を予防

  • ベッド上や座位での軽い動きにより、筋力低下や体力の低下(廃用症候群)を防ぐ

  • 手術部位の保護や、リンパ浮腫の初期教育を行う(圧迫の注意点など)

 

⚠️ 治癒が進行中の時期は、運動を始める前に必ず医師に相談してください。
無理のない範囲で体を整えることが、長期的な回復への第一歩になります。

リハビリ初期フェーズ(治療後 2〜6週間)

フォーカス:可動性の向上、姿勢の改善、軽度な関節可動域訓練、軽い抵抗運動

適応対象:大きな合併症がなく、手術創が治癒中または閉鎖されている患者さん

実施できる活動例:

  • 肩・首・骨盤まわりのやさしい可動域運動(ROM)

  • 姿勢保持・アライメントサポートの練習

  • リンパ浮腫のスクリーニングとセルフケア指導

  • 状況に応じた初期の徒手療法や瘢痕(はんこん)モビライゼーション

 

参考文献:
Stout NLら(2012)
乳がんリハビリテーションのための前向きスクリーニングモデル
Cancer. 2012;118(21):5170–5178. https://doi.org/10.1002/cncr.27476

筋力強化・コンディショニング期(治療後6〜12週以降)

フォーカス:筋力、持久力、バランス能力の向上 / 日常生活や趣味への復帰支援

適応対象:手術創が完全に治癒し、倦怠感がコントロールされ、血液検査の値が安定している方

実施できる活動例:

  • 漸進的なレジスタンストレーニング(自重・チューブ・軽負荷ウエイトなど)

  • 有酸素運動(ウォーキング、室内バイクなど)

  • 歩行やバランス能力の再トレーニング

  • 疲労を軽減するための「エネルギー温存教育」(活動の優先順位づけや休息の取り方)

 

参考文献:

Campbell KLら(2019)
がんサバイバーのための運動ガイドライン:国際的専門家によるコンセンサスステートメント
Medicine & Science in Sports & Exercise 2019 Jun;51(11):2375–2390
https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000002116

個別対応の重要性:

実際のリハビリの進行ペースは、次のような要素をもとに個別に調整されるべきです:

  • がんの種類と治療内容(手術・化学療法・放射線など)

  • 血液検査の値(特に血小板やヘモグロビンのレベル)

  • 皮膚の状態や創部の治癒具合

  • 痛みや末梢神経障害(しびれ・感覚異常)の有無

  • 心理的な準備状況やモチベーション

 

⚠️ 運動やリハビリを始める前に、必ず主治医(腫瘍内科医・外科医など)および、がんリハビリに対応した認定医療者(理学療法士・作業療法士など)にご相談ください。患者さん一人ひとりの状態や目標に合わせた、安全で無理のない計画が、効果的な回復につながります。

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