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リンパ浮腫の管理と治療

圧迫衣類とデバイスの種類：
何を選ぶ？なぜ必要？いつ使う？

圧迫が大切な理由:

圧迫はリンパ浮腫ケアの基盤です。単に「むくみを押し下げる」だけでなく、治療で得られた改善を維持し、日々の体液の変動を抑え、活動的に過ごせるようにサポートします。
しかし、市場にはさまざまな種類の圧迫衣類やデバイスがあり、どれが自分に合っているのか分かりにくいこともあります。

ここでは、科学的根拠に基づいた選択肢、製品の種類、そして実践的なポイントをわかりやすく整理しました。

圧迫衣類の種類:

フラットニット vs サーキュラーニット

  • フラットニット（縫い目あり・しっかりした生地）
    不規則な形や進行したリンパ浮腫に最適。強い保持力があり、丸まりにくく、多くはオーダーメイド（ILF, Wounds International; Reich-Schupke 2019）。

    • 例: JOBST Elvarex®, Medi 550 Flat-Knit, Sigvaris Compreflex® Custom

  • サーキュラーニット（縫い目なし・伸縮性あり）
    既製品が多く、快適で見た目も自然。初期・軽度のむくみや形が整った四肢に適しているが、強い圧迫が必要な場合は皮膚に食い込むこともある。

    • 例: JOBST Bella Lite® Arm Sleeve, Medi Mediven Plus®, Sigvaris Essential Comfort®

 

オーダーメイド vs 既製品

  • オーダーメイド: 複雑な形や左右差が大きい場合に最適。多くはフラットニット。

  • 既製品: 価格が抑えられ、すぐに入手可能。多くはサーキュラーニット。

 

部位と付属品

  • 上肢：スリーブ＋グローブ／ガントレット

  • 下肢：膝下、太もも丈、ストッキング、足先・つま先カバー

  • 付属品：シリコンバンド（ずれ防止）、ファスナー／ライナー（装着補助）、着脱補助具

    • 例: Medi donning butler, Sigvaris Melany gloves, JOBST donning aid kits

 

調整式ラップ（ベルクロタイプ）

  • 自分で装着・調整がしやすく、握力に不安のある方にも有効。最近の研究では、従来の包帯法と同等の効果があると報告されています (Reisshauer 2025)。

    • 例: Circaid® Juxtafit, Sigvaris Compreflex®, JOBST FarrowWrap®

 

夜間用圧迫衣

  • キルティング加工やフォーム素材を用いた「ナイトスリーブ」。睡眠中にむくみの戻りを防ぎます。研究では、日中のセルフケアをさらに効果的にすると報告されています (McNeely 2022)。

    • 例: JOBST Relax® Night Garment, Sigvaris Transition Night®, Medi Mondi Esprit® Night Garment

圧迫クラス：どのくらいの強さが必要？

圧迫衣は「クラス」によって圧の強さが決められています。

  • クラス 1: 15–21 mmHg（軽い圧迫）

  • クラス 2: 23–32 mmHg（中等度）

  • クラス 3: 34–46 mmHg（強い圧迫）

  • クラス 4: >49 mmHg（非常に強い圧迫）

 

国際ガイドラインの一般的推奨 (ISL, 2023; ILF; Lozo 2022)

上肢（腕・手）

  • 軽度／初期：クラス 1–2

  • 中等度・慢性：クラス 2（最も一般的）

  • 重度・線維化：クラス 3（耐えられる場合）

 

下肢（脚・足）

  • 軽度／初期：クラス 2

  • 中等度〜重度：クラス 3

  • 進行例：クラス 4（限定的な使用）

 

体幹・頭頸部・外陰部

  • 多くはオーダーメイド。クラス 1–2 相当の圧を用いることが多い。

 

ポイント: 圧が弱すぎれば効果はなく、強すぎれば装着が難しい。専門家による採寸と指導が不可欠です。

市販されているデバイス:

間欠的空気圧迫装置 (IPC, “ポンプ”)

  • 基本タイプ: 単純なスリーブ型。短期的にはむくみを減らすが、継続的な圧迫衣との併用が必須 (Hou 2024)。

    • 例: Bio Compression Systems®, Lympha Press® Mini Press

  • 高度タイプ (APCD): 部位ごとに調整可能。体幹や頭頸部にも対応。むくみの減少、生活の質改善、蜂窩織炎の減少が報告されています (Maldonado 2021; Lerman 2019; Ridner 2020)。

    • 例: Flexitouch Plus® (Tactile Medical), Lympha Press Optimal Plus®, Entre® by Tactile Medical

 

新しいウェアラブルデバイス（非空気圧迫式）

  • 例: Dayspring® (Koya Medical)。空気袋を使わず、バッテリー駆動で日常生活中も装着可能。初期研究で高い患者満足度と有効性が報告されています (Rockson 2022; Barfield 2025)。

 

まとめ: デバイスは「補助的役割」であり、圧迫衣の代わりにはなりません。特に体幹や頭頸部など難治部位のケアや、衣類だけで十分に管理できない場合に有効です。

圧迫衣は「むくみが減ってから採寸」が鉄則:

複合的理学療法（CDT）は以下の2段階で進みます：

  1. 集中除去期: 毎日の包帯＋リンパドレナージ＋運動

  2. 維持期: 圧迫衣＋セルフケア

 

圧迫衣は「小さくなった四肢を維持する」ために作られているため、むくみが十分に減った後、通常は集中期から維持期に移行する時点で採寸します (ILF; Wounds International; ISL, 2023)。

 

なぜ大事か:

  • 早すぎる採寸 → サイズが緩くなり効果が落ちる

  • きつすぎるサイズ → 食い込み・皮膚トラブル・装着困難

  • 専門家による適切な採寸 → 快適性・継続性・治療効果を向上 (Dzupina 2025; Cigna 2025)

まとめ:

  • 圧迫はリンパ浮腫治療の基盤

  • 衣類選択はむくみの程度・形・生活スタイルで異なる

  • フラットニット／オーダーメイド＝強い保持力、複雑な形に有効

  • サーキュラーニット／既製品＝初期や軽度のケースに便利

  • ラップ・夜間衣・デバイスは有用な補助

  • クラス選択は部位・重症度・耐容性で決まる（多くはクラス2）

  • 採寸はむくみが減った後に実施するのが成功の鍵

科学的参考文献（Scientific References）:

  • Barfield, M., et al. (2025). Comparative study of a nonpneumatic compression device vs APCD for lower-extremity lymphedema. JVS-Venous and Lymphatic Disorders.

  • Damstra, R. J., & Partsch, H. (2013). Adjustable compression wraps vs multilayer bandaging in lymphedema: RCT. JVS-Venous and Lymphatic Disorders.

  • Dzupina, A., et al. (2025). Compression garment adherence and timing of fitting: clinical outcomes. Phlebology.

  • Hou, S., et al. (2024). Intermittent pneumatic compression as adjunct to CDT in breast-cancer–related lymphedema: Meta-analysis. GS (AME Publishing).

  • International Lymphoedema Framework (ILF). (2019). Best Practice for the Management of Lymphoedema.

  • International Society of Lymphology (ISL). (2023). Consensus Document: Diagnosis and Treatment of Peripheral Lymphedema. Lymphology.

  • Lerman, M., et al. (2019). Health and economic benefits of advanced pneumatic compression. Journal of Vascular Surgery.

  • Lozo, M., et al. (2022). Compression structure and pressures of medical stockings. Polymers.

  • Maldonado, T. S., et al. (2021). Quality-of-life improvements with APCD in lower-extremity lymphedema. JVS-Venous and Lymphatic Disorders.

  • McNeely, M. L., et al. (2016). Feasibility of nighttime compression in breast-cancer–related lymphedema. BMC Cancer.

  • McNeely, M. L., et al. (2022). Nighttime compression improves self-management in lymphedema: RCT. Cancer.

  • Reisshauer, A., et al. (2025). Adjustable wraps non-inferior to inelastic bandaging in CDT. Phlebology.

  • Reich-Schupke, S., et al. (2019). Flat-knit vs round-knit compression garments: Expert consensus. Phlebology.

  • Ridner, S. H., et al. (2020). APCD for head & neck lymphedema: Waitlist trial. Supportive Care in Cancer.

  • Rockson, S. G., et al. (2022). Safety and effectiveness of a novel non-pneumatic compression device. Scientific Reports.

  • Wounds International. (2021). Lymphoedema practice patterns: garment definitions and fitting.

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