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リンパ浮腫の管理と治療

リンパ系とリンパ浮腫とは?

リンパ浮腫は、リンパ液の輸送障害によって起こる、慢性かつ進行性の疾患です。リンパの流れが滞ることで、タンパク質を多く含んだリンパ液が皮下組織にたまり、腕・脚・体幹などに持続的な腫れ(むくみ)を引き起こします。場合によっては、顔や陰部などにも症状が現れることがあります。

放置するとどうなるの?

適切に管理されない場合、リンパ浮腫は次のような合併症や生活の質の低下を引き起こす可能性があります:

  • 皮膚の硬化や線維化(皮膚が厚く硬くなる)

  • 蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの感染症のリスク増加

  • 関節の可動域制限や日常生活動作の低下

リンパ浮腫は進行を止めることは難しいものの、適切なケアにより症状のコントロールが可能です。
早期発見と専門的な対応が、合併症の予防と生活の質の維持に大きく関わります。

リンパ系のはたらき

リンパ系は、循環系および免疫系の中で重要でありながら、見過ごされがちな要素です。
その主な役割には、以下のような働きがあります:

  • 組織間にたまった間質液(細胞と細胞の間の余分な水分)を排出する

  • 免疫細胞を運び、リンパ節で異物(病原体など)をろ過する

  • タンパク質や老廃物を血液に戻す

  • 小腸のリンパ管(乳び管)を通じて、食事からの脂肪を吸収する

血管とは異なり、リンパ系には心臓のような中央ポンプがありません。
そのため、リンパ液の流れは以下のような身体の自然な動きに依存しています:

  • 筋肉の収縮(運動や日常動作)

  • 呼吸運動

  • 近くを走る動脈の拍動

  • リンパ管内の一方向バルブ(逆流を防ぐ弁)

体液循環の最新モデル:動脈 → 間質 → リンパ系 → 静脈

従来の見解(現在では古い考え方)

体内でろ過された体液の約90%は静脈の毛細血管に再吸収され、残りの約10%がリンパ系を通って戻るとされてきました。

 

最新の見解(グリコカリックスの研究と改訂スターロングの法則に基づく)

近年の研究では、間質液のほぼすべてがリンパ系を通じて排出されていることが明らかになっています。
静脈の毛細血管は、多くの組織でほとんど液体を再吸収しません。そのため、リンパ系こそが体内の余分な体液を回収するための主なルートとされています。

参照文献:Levick JR & Michel CC. Revised Starling Principle. Cardiovasc Res. 2010.

 

なぜこれが重要なのか:

リンパ浮腫では、このリンパの「回収ルート」が損傷したり、詰まったりすることで、
体液が戻れなくなり、腫れが慢性化してしまいます。静脈側では代わりに処理することができないため、
リンパ系の働きがどれほど重要かが、改めて明らかになっています。

リンパ浮腫の原因

原発性リンパ浮腫(先天性または発達異常によるもの)

生まれつき、または発達の過程でリンパ管の形成異常や欠損があることが原因です。以下のような時期に発症することがあります:

  • 出生時(Milroy病)

  • 思春期(Meige病)

  • 35歳以降(リンパ浮腫タルダ)

FLT4、FOXC2、GJC2などの遺伝子変異との関連が知られています。

 

続発性リンパ浮腫(後天的に起こるもの)

もともと正常だったリンパ系が、後天的なダメージを受けることで発症します。世界的にはこちらのタイプが最も一般的です。

主な原因:

  • がん治療(リンパ節郭清、放射線治療など)

  • 手術や外傷

  • 感染症(熱帯地域でのフィラリア症、繰り返す蜂窩織炎など)

  • 肥満

  • 慢性静脈不全

科学的参考文献 / Scientific References

  • International Society of Lymphology (ISL). (2020)
    The diagnosis and treatment of peripheral lymphedema: 2020 Consensus Document of the ISL.Lymphology, 53(1), 3–19
    ⇒ リンパ浮腫の診断・ステージ分類・治療・教育に関する包括的な国際ガイドライン。

  • Levick, J. R., & Michel, C. C. (2010)
    Microvascular fluid exchange and the revised Starling principle.
    Cardiovascular Research, 87(2), 198–210
    ⇒ 体液の微小循環における新しいスターロング理論を提唱。リンパ系の役割の重要性を示した画期的研究。

  • von der Weid, P. Y., & Zawieja, D. C. (2022)
    Lymphatic vascular system: much more than just a sewer.
    Cell & Bioscience, 12, 98
    ⇒ リンパ系が排液システムだけでなく、免疫・代謝・輸送など多機能を担うことを強調。

  • Mortimer, P. S., & Rockson, S. G. (2014)
    New developments in clinical aspects of lymphatic disease.
    Journal of Clinical Investigation, 124(3), 915–921
    ⇒ リンパ浮腫の病態生理と診断の課題についての最新レビュー。

  • Greene, A. K., & Slavin, S. A. (2015)
    Lymphedema: Presentation, diagnosis, and treatment.
    Clinics in Plastic Surgery, 42(2), 285–295
    ⇒ リンパ浮腫の臨床症状、診断方法、治療戦略を網羅。

  • Schook, C. C., et al. (2011)
    Secondary lymphedema: Pathophysiology, diagnosis, and therapy.
    Plastic and Reconstructive Surgery, 127(6), 945e–956e
    ⇒ 続発性リンパ浮腫の原因、画像診断、学際的治療アプローチを詳述。

  • Mellor, R. H., et al. (2007)
    Mutations in FOXC2 are associated with hereditary lymphedema-distichiasis syndrome.
    Nature Genetics, 30(2), 191–195
    ⇒ 原発性リンパ浮腫に関わる遺伝的要因(FOXC2変異)に関する研究。

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