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リンパ浮腫の管理と治療

リンパ節郭清と浮腫リスク

がん治療のあとに心配される症状のひとつがリンパ浮腫です。リンパ節の切除や放射線治療の有無、切除された数や部位、さらに体重や感染などの要因によってリスクが変わります。

リスクを正しく理解し、圧迫着の使用など予防策を知っておくことは、患者さんやご家族にとって大きな安心につながります。

リンパ節郭清が重要な理由:

リンパ節は、体の免疫やリンパ液の流れを調整する重要な器官です。がんの広がりを調べるためにリンパ節を切除することがありますが、その結果リンパ液の循環が障害され、リンパ浮腫(慢性的なむくみ)が起こる可能性があります (ISL, 2020)。

  • 切除されたリンパ節が多いほどリスクが高くなることが分かっています (DiSipio ら, 2013)。

  • ただしリスクは数だけでなく、放射線治療、体重、感染や創部治癒の遅れなどにも影響されます (McDuff ら, 2019)。

リンパ節切除の方法とリスク:

手術方法によってリスクは大きく異なります:

  • センチネルリンパ節生検(SLNB)

    • 通常は 1〜3個のリンパ節を切除。

    • リスクは 約5〜10% (DiSipio ら, 2013)。

    • 放射線治療がなければ 3〜7%程度に下がると報告されています (ISL, 2020)。

  • 腋窩リンパ節郭清(ALND)

    • 10〜20個以上のリンパ節を切除。

    • リスクは 20〜30% (DiSipio ら, 2013)。放射線治療を併用すると 最大40% に達することがあります (McDuff ら, 2019)。

  • 骨盤・鼠径部リンパ節郭清(婦人科系、前立腺、メラノーマなど)

    • リスクは 20〜50%。特に放射線治療を併用した場合に高まります (ISL, 2020; Rockson & Rivera, 2008)。

  • 放射線治療の影響

    • 腋窩、鎖骨上、骨盤などのリンパ節領域への放射線照射は、郭清が少なくてもリスクを約2倍にします (McDuff ら, 2019)。

    • 例:SLNB + 放射線治療 → 10〜15%、SLNBのみ → 5〜10% (DiSipio ら, 2013)。

その他のリスク因子:

リンパ節の数だけではなく、以下もリスクに影響します:

  • BMI 30以上(肥満):リスクが約1.5〜2倍に増加 (DiSipio ら, 2013)。

  • 術後合併症(感染、リンパ液貯留、創部治癒の遅れ):強いリスク因子 (ISL, 2020)。

  • 高齢:組織修復が遅いためリスク上昇 (Rockson & Rivera, 2008)。

  • 外傷や繰り返す感染:手術から数年後でも発症のきっかけになることがあります (ISL, 2020)。

  • コード状硬結(Axillary Web Syndrome, AWS):エビデンスはまだ確定的ではありません。大規模な前向き研究や後ろ向き研究では、AWSを発症した人はリンパ浮腫の短期的リスクが2〜3倍に高いと報告されています。特に術後1か月以内にAWSが出現した場合、リスクが顕著に増加します (Brunelle ら, 2020; Ryans ら, 2020)。一方で、10年間の追跡研究や最新のシステマティックレビューでは関連が明確でないとされ、長期的な因果関係は不確定です (Wariss ら, 2017; Brunelle & Serig, 2024)。臨床的にはAWSは注意すべきサインと考えられ、経過観察を強化する理由になります。

圧迫着(コンプレッションガーメント)の活用:

a. 予防的使用について

  • すべての人に必要ではありません。 現行のガイドラインでは、術後すぐの全員への着用は推奨されていません (ISL, 2020; Stuiver ら, 2015)。

  • 効果が期待される人:

    • 腋窩や骨盤・鼠径部の広範囲郭清を受けた人 (ISL, 2020)。

    • 放射線治療を併用している人 (McDuff ら, 2019)。

    • ごく早期の浮腫(機器検査や周径差でわかる段階) (Stout ら, 2012)。

    • 肥満や感染の既往など複数のリスク因子をもつ人 (DiSipio ら, 2013)。

b. 着用が勧められる場面

  • 飛行機搭乗時:気圧変化で一時的にむくみが悪化しやすいため (ISL, 2020)。

  • 運動・激しい活動時:特に術後1年以内は一時的な浮腫を防ぐ効果が報告されています (Stuiver ら, 2015)。

  • 初期のリンパ浮腫が疑われるとき:早期の圧迫着使用が慢性化の予防につながる可能性があります (Stout ら, 2012)。

c. 圧迫圧の目安(クラス)

  • クラス I(15〜20 mmHg):予防やごく初期の症状に (ISL, 2020)。

  • クラス II(20〜30 mmHg):軽度の浮腫に (ISL, 2020)。

  • クラス III以上:明らかなリンパ浮腫に使用、必ず専門家による採寸・処方が必要 (ISL, 2020)。

d. エビデンスに基づくまとめ

  • 全員が着用すべきというガイドラインはない (Stuiver ら, 2015)。

  • ただし 高リスク群(ALND + 放射線、骨盤郭清、初期の腫れ) では予防的効果が期待されます (ISL, 2020)。

  • 使用の有無やタイミングは、リンパ浮腫療法士などの専門家と相談して個別に決めることが望まれます (Stout ら, 2012)。

まとめ:

リンパ浮腫のリスクは、切除されたリンパ節の数や部位によって大きく変わり、さらに放射線治療や肥満、感染などが加わるとさらに高まります (DiSipio ら, 2013; McDuff ら, 2019)。センチネル生検は比較的リスクが低い一方で、腋窩郭清や放射線併用では 30〜40%以上 に達することがあります。

 

圧迫着は「全員に必要」ではありません。 エビデンスに基づく推奨は、高リスク群やごく早期の腫れに対して予防的に用いることです (ISL, 2020; Stuiver ら, 2015)。運動やスキンケア、早期からのモニタリングと組み合わせることで、リンパ浮腫は予防・軽減できる可能性があります (Stout ら, 2012)。

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科学的参考文献(Scientific References):

  • Brunelle, C. L., Roberts, S. A., Shui, A. M., et al. (2020). Patients who report cording after breast cancer surgery are at higher risk of lymphedema: Results from a large prospective screening cohort. Journal of Surgical Oncology, 122(2), 155–163.

  • Brunelle, C. L., & Serig, A. (2024). Is axillary web syndrome a risk factor for breast cancer-related lymphedema of the upper extremity? A systematic review and meta-analysis. Breast Cancer Research and Treatment, 208(3), 471–490.

  • DiSipio, T., Rye, S., Newman, B., & Hayes, S. (2013). Incidence of unilateral arm lymphoedema after breast cancer: A systematic review and meta-analysis. The Lancet Oncology, 14(6), 500–515.

  • International Society of Lymphology (ISL). (2020). The diagnosis and treatment of peripheral lymphedema: 2020 Consensus Document of the ISL. Lymphology, 53(1), 3–19.

  • McDuff, S. G. R., Mina, A. I., Brunelle, C. L., et al. (2019). Timing of lymphedema after treatment for breast cancer: When are patients most at risk? Int J Radiat Oncol Biol Phys, 103(1), 62–70.

  • Rockson, S. G., & Rivera, K. K. (2008). Estimating the population burden of lymphedema. Annals of the New York Academy of Sciences, 1131(1), 147–154.

  • Ryans, K., Davies, C. C., Gaw, G., et al. (2020). Incidence and predictors of axillary web syndrome and its association with lymphedema in women following breast cancer treatment: A retrospective study. Support Care Cancer, 28(12), 5881–5888.

  • Stout, N. L., Binkley, J. M., Schmitz, K. H., et al. (2012). A prospective surveillance model for rehabilitation for women with breast cancer. Cancer, 118(8), 2191–2200.

  • Stuiver, M. M., ten Tusscher, M. R., Agasi-Idenburg, S. C., Lucas, C., & Aaronson, N. K. (2015). Conservative interventions for preventing clinically detectable upper-limb lymphoedema… Cochrane Database Syst Rev, 2015(2), CD009765.

  • Wariss, B. R., Costa, R. M., Pereira, A. C., Koifman, R. J., & Bergmann, A. (2017). Axillary web syndrome is not a risk factor for lymphoedema after 10 years of follow-up. Support Care Cancer, 25(2), 465–470.

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